「ここをクリックしてください」では、伝わらなかった。

eスポーツの体験イベントには、普段からゲームを遊ぶ人だけが来るわけではない。 マウスやキーボードに慣れていない子どももいれば、初めてゲームに触れる高齢者もいる。

子どもには、ドラッグの操作から説明する。 あるイベントの『太鼓の達人』では、「ドン」と「カッ」の違いから伝える。 津幡町eスポーツフェスタで出展したGeoGuessr では、風景から場所を探す以前に、地図を動かし、予想した位置へピンを刺す方法を知ってもらう必要があった。

ゲームを知っている学生にとって、どれも説明するまでもない操作だった。 しかし、イベントの参加者にとっては違った。 自分たちの「当たり前」をそのまま渡しても、相手は遊び始めることさえできない。

学生は、ゲームを教える前に、相手がどこで困っているのかを見る必要に迫られた。

私は、金沢工業大学eSportsプロジェクトの顧問を務めている。

このプロジェクトは、大学公認の課外活動である。 競技活動だけでなく、地域でゲームを体験してもらうイベントにも取り組んでいる。 参加する学生の専門分野は限定しておらず、情報系だけでなく、建築や電気電子系などを学ぶ学生もいる。 自分が遊びたい、競技で上達したいという関心を入口に、異なる専門を学ぶ学生が同じ場所へ集まっている。

ゲームから企業を知る学生

学生がゲームを知らない人に向き合う姿を見ながら、私はeスポーツが学生を大学の外へ連れ出していると感じた。 企業との接点も、その行き先の一つである。

別の事例として、鳥山稔氏は、eスポーツに関わる仕事や企業を就職先として考える学生が増えているという実感を記事に記している。

記事で紹介されている株式会社キノトロープは、ゲーム会社やイベント会社ではなく、Webサイトの企画、制作、運用を本業とする企業である。 同社が運営するeスポーツチームをきっかけに、学生が企業そのものを知る。 鳥山氏は、その順序を次のように表している。

先にeスポーツチームを知る。その後で、運営している企業を知る。

学生が就職活動を始めてから企業を探すのではなく、eスポーツへの関心から企業へたどり着く。 この動きを、企業側の採用効果だけから見る必要はないと思う。

学生がeスポーツを通じて大学の外にいる人や組織を知るようになったとき、大学はその関心をどのような経験へつなげられるだろうか。

大学は「知る」と「関わる」の間にある

学生が大学の外にいる人と関わるには、最初に話を聞いてもらうきっかけと、活動を続ける場所が要る。 そのきっかけをつくるうえで、大学の名前と信用が支えになる。 企業や自治体との関係には、学生個人の関心だけでは始めにくいものがある。 大学のプロジェクトとして活動しているからこそ、相手に話を聞いてもらい、最初の関係を結べたこともあった。

学生が継続して集まれる活動場所も、大学が用意できるものの一つである。 同じ場所で顔を合わせ、企画や練習を重ねられるから、個人の興味が一度きりで終わらず、外部と関わる活動へ育っていく。

ただし、大学がきっかけと場所を用意するだけでは、外部との関係は続かない。

初めて遊ぶ人に伝える

地域のイベントで学生たちが戸惑ったのは、ゲームのルールよりも、その手前にある操作を伝える場面だった。

「クリック」や「ドラッグ」という言葉が通じるとは限らない。 画面上のどこを見ればよいのか、コントローラーをどのように持つのかも、人によっては説明が必要になる。

学生たちも、最初からうまく対応できたわけではなかった。 言葉で説明しても伝わらず、参加者がどこで困っているのか分からないまま、あたふたする場面があった。

それでも、学生たちは自分たちで対応を考え始めた。 言葉だけで伝わらなければ、実際に操作して見せる。 参加者だけに遊んでもらうのではなく、隣で一緒に遊ぶ。 説明した後も手元や画面を見て、次に困っていることを探す。

私が成長を感じたのは、学生が滞りなくゲームを説明できるようになったからだけではない。 説明が通じないと分かったあと、自分たちで別の伝え方を考え、実際に試したからだった。

他大学とのスクリム

競技部門では、向き合う相手がゲームに不慣れな参加者から他チームへ変わる。

対戦ゲームでは、個人の操作技術や判断力が結果に表れる。 しかし、個人の能力だけでチームが強くなるわけではない。 誰がどの役割を担い、互いの動きにどう合わせるのかを考える必要がある。

他大学や他団体とのスクリムでは、試合をする前にも仕事がある。 相手へ連絡し、日程を調整し、双方が練習できる条件を整える。 対戦後には、自分のプレーだけでなく、チーム全体の動きを振り返る。

学生たちは次第に、試合をして終わるのではなく、振り返りを次の練習へつなげるようになった。 個人の能力を伸ばすだけでなく、チームとしての動きを考え、実践するようになった。

対戦相手は、倒すべき相手であると同時に、練習の機会を一緒につくる相手でもある。 競争するためにも、協力が要る。

自分たちの活動を外から見直す

企業や団体がプロジェクトを訪問したとき、教職員は日程調整や大学との連携に関する説明を担当する。 一方、普段の活動や取り組みについては、できるだけ学生自身に説明してもらっている。

最初から整った説明ができたわけではない。 話す順序が定まらず、活動の内側にいる学生にしか分からない言葉を使い、相手へ十分に伝えられないこともあった。

しかし、訪問を重ねるうちに説明は変わっていった。 相手に応じた言葉を選び、スライドを用意し、あらかじめ説明の順序を考えるようになった。

学生が覚えたのは、形式的なビジネスマナーだけではない。 自分たちの活動を知らない人に向けて、その目的や価値を説明する方法だった。

ゲーム体験では、ゲームを知らない人に操作と面白さを伝える。 企業や団体の訪問では、活動を知らない人に目的と価値を伝える。 どちらも、仲間内で共有されている前提をいったん外し、相手が理解できるところから説明し直す経験である。

次の企画につながる信用

学生の変化は、外部の人からの反応にも表れている。

企業や団体から、学生に対して「しっかりしている」という印象を聞くことが増えた。 イベントや企画を終えたあとには、次も一緒に取り組みたいという声をいただくこともある。

ありがたいことに、一度の交流で終わらず、継続してイベントや企画に取り組む関係が生まれている。 その積み重ねを通じ、地域や自治体との関わりも少しずつ育ってきたように見える。

最初の接点には、大学の名前と信用が役立った。 しかし、次の企画へつながったのは、学生が準備し、相手に合わせて説明し、企画を一緒に成立させたからだと思う。

関係が続くにつれて、大学は単なる窓口ではなく、学生と地域、企業が繰り返し出会う場所になっていく。

大学が支え、学生に残すこと

学生に外部との関係をすべて任せればよいわけではない。

企業や自治体から相談が届くと、まず教職員が窓口になる。 依頼の内容を整理し、学生の負荷や、プロジェクトとして対応できる範囲を見極めるためである。

ただし、教職員だけで引き受ける案件を決めるわけではない。 学生たちは「やりたい」という意志が強く、相談そのものを断ることはほとんどない。 しかし、すべてを当初の依頼どおりに引き受けられるわけではない。 学生の負荷や対応できる範囲に合わせ、イベントの内容を変更するなどして調整する。 どのような形なら実施できるかを考え、最終的に決めるのは学生たちである。

学生主体とは、教職員が何もしないことではない。 教職員が条件を整理し、関係の土台を支えながら、学生自身が説明し、判断し、改善できる部分を残すことである。 この役割分担によって、外部との関係と企画運営のノウハウは、実際に活動する学生の側に残る。

eスポーツだけで生まれる変化か

eスポーツにしか生み出せない成長だとは思わない。 スポーツや文化活動でも、異なる人と関わる中で同じような経験は生まれるだろう。

それでも、ゲームへの関心がなければ課外活動へ参加しなかった学生もいる。 eスポーツは、その学生をチームの仲間、地域の人、他大学の選手、企業や団体の担当者へつなぐ入口になれる。

ただし、eスポーツに参加すれば自動的にこうした変化が起きるわけではない。 ゲームに詳しい学生だけで活動が閉じていれば、初心者に操作を説明する必要はない。 個人で遊ぶだけなら、他大学と日程を調整する必要も、企業へ活動の価値を説明する必要もない。

活動が大学の外へ開かれ、異なる相手と一緒に何かを成立させようとしたとき、学生は自分の前提を見直すことになる。 自分がゲームを楽しむために始めた行動が、他者と活動を続けるための行動へ変わっていく。

大学が担うのは、学生と企業を就職で結ぶことだけではない。 大学の信用と場所を足場として学生の関心を活動へ変え、地域、他大学、企業と一緒に何かを成立させる機会をつくることである。

大学がつくる接点とは、学生と外部の人が出会うだけの場所ではない。 互いに合わせて行動を変え、一緒に活動をつくれる場所なのだと思う。

最初は「クリックしてください」と説明しても、参加者には伝わらなかった。
そこで学生たちは、参加者の隣で操作を見せ、そのまま一緒に遊んだ。

学生が伝え方を変えたことで、ゲームを教える場は、参加者と一緒に楽しむ場へ変わった。